歯の健康について

Q&A

大切な歯を守るために 8020をめざして

自分の歯でおいしく食べよう

生涯を通じて自分の歯で噛むことができるのは理想です。しかし、現実には年齢が高くなるほど、むし歯や歯槽膿漏しそうのうろうで自分の歯が残り少なくなってしまうのが一般的です。

「8020(ハチマルニイマル)運動」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?これは厚生省と日本歯科医師会が提唱している「80歳で20本の自分の歯を残し、なんでも良く噛める快適な状態に口の中を保とう」という運動です。
現在、むし歯治療はかなり進歩して、たとえむし歯が進んで口の中に出ている歯の頭の部分がぼろぼろになっても、歯ぐきの中の根がしっかりしていれば、いろいろな治療を行うことで再び自分の歯として十分機能する状態に回復することができます。つまり、できるだけ抜歯せず、自分の歯を残していこうということです。

しかし、さらにむし歯を放置し、これが進行してくると、歯のぐらぐらがひどくなってしまい、たびたび歯ぐきが腫れて痛みが出てきます。このように噛むこともままならない状態になると、仕方なく抜歯といったことになってしまいます。
ここまで悪くならないうちに、むし歯の治療や歯磨き指導を受け、さらに歯石をとってもらうなど、歯槽膿漏の予防につとめることが大切です。口の中の健康を保ち、いつまでも自分の歯でおいしく食べたいものですね。

あなたの歯は何本?

人の歯の多くは、若いころはむし歯によって、成人してからは歯周病によって失われていきます。特に歯周病は、あまり痛くもならないのに、一度にたくさんの歯がだめになってしまうため、十分な注意が必要です。

ところで、今あなたの口の中に、何本の歯があるのでしょうか?

親知らずを除いて、通常では28本の歯が生えています。高齢になっても快適な生活を送るには、自分の歯を大切に長持ちさせることが必要となりますが、最近の全国調査ではひとり平均、40歳代で3本、50歳代で5本、60歳代で12本、70歳台で20本、80歳台で24本の歯を失っているという結果が出ています。
好きなものを何でもおいしく食べるには、健康な自分の歯が20本以上あることが必要だといわれています。しかし、歯は40歳を過ぎるころから急激に失われ、70歳では平均8本の歯しか残っていないのが現実です。

歯が失われるとどうなるでしょうか?

まず、 みごたえのある食品が食べにくくなります。すると家族全員で同じものが食べられなくなり、食事を楽しむことができなくなります。
何でも食べられる人は、高齢になっても活発に活動できるのに対し、よく噛めなくなることは、さまざまな成人病を引き起こす引き金となってしまいます。なくなってから悔やむより、今から歯の健康づくりに気をつけなければなりません。

歯垢と歯石の話

皆さんは、なぜ歯を磨かないといけないのか、なぜむし歯や歯槽膿漏になるのか、考えたことがありますか?

口の中にいるう蝕病原菌が食物の中の多糖類に作用して、デキストランと呼ばれるネバネバした物質を作って、歯の表面に付着し、 歯垢しこうの第一歩ができます。この歯垢が他の細菌や他の糖分(果糖、ブドウ糖、デンプンなど)を取り込んで酸を作り出し、歯の表面のエナメル質をこわしてむし歯になります。また、歯垢中の歯周病菌が繁殖すれば歯槽膿漏の前段階である歯肉炎を引き起こします。

かつては生肉だけを食べていたエスキモーの人たちにはむし歯はなかったそうですが、現在ではエスキモーの人たちも生肉だけでなく糖分の入った食物を食べるようになり、むし歯や歯槽膿漏で歯の治療を受けているとのことです。

むし歯や歯槽膿漏を防ぐには、歯垢を取ってやらなければなりません。歯垢は歯と歯の間や歯と歯肉との境目に白くたまり、一見すると食べかすのように見えますが、実はむし歯や歯槽膿漏を引き起こすいろいろな細菌が集まっています。

歯垢は歯ブラシで取れますが、放置しておくとだ液中のカルシウム等を吸収して固まり、歯ブラシではとれない歯石となってしまいます。

歯石をさらに放置しておくと、少しずつ成長し、初めは歯の表面に付いて歯肉を押し下げるだけですが、そのうち歯肉より下の歯根面に付着し、歯と歯槽骨をつないでいる組織まで破壊し、ついには歯槽膿漏となってしまいます。
歯石はスケーラーと呼ばれる器械でなければ取れませんので、最低1年に1度は定期検診を受けてください。

歯が一本ないと

私たちは普段食べたり、しゃべったりしていますが、それは歯がそろっているおかげです。もし、たった一本でも歯を失ったとしたら、一体どうなるのでしょうか?

歯が抜けてしまうと、何よりもまず食べ物を む能力が低下します。つまり消化器官として食物を細かく噛みつぶすという機能が衰えることになります。

ピーナッツや生米による実験では、下あごの6歳臼歯きゅうしを一本失っても、食物の粉砕能率は、以前に比べてなんと40%も落ちてしまうことが明らかになっています。

また、前歯ならどうでしょうか。一本抜けただけでも発音に異常をきたします。

歯は歯槽骨のなかに一本一本しっかりと固定され、互いに隣接しあってバランスをとっています。そのうちの一本でもなくなれば、歯列にゆがみやゆるみが生じ、長い間放置すると抜けた歯の隣の歯が傾いてきたり、その歯と噛みあった歯が伸びて浮き上がってきたりします。

これによって歯ならびを悪くしたり、噛みかたを悪くしたりしたために、特定の歯に異常な負担をかけることにもなり、歯槽膿漏を誘発しやすくすることもあります。

また、噛み合わせが悪くなったために がく関節症かんせつしょうという病気を起こすことにもなりかねません。

このように歯を失った後の未処理、放置はさまざまに悪い結果を生み出します。歯を失ったら、ある期間の後には、必ず歯を入れることが重要なのです。

さあ、もう一度ご自分の口の中をのぞいて、異常があるかどうか確かめてください。

親知らずが痛むとき

あなたの口の中には「親知らず」が生えていますか?

親知らず(智歯ちし)は、江戸時代の俳書「毛吹草けふきぐさ」に「姥桜 はゆる若葉や 親知らず」とあるように、多くは20歳前後に生えてくる一番奥の歯のことで、6歳ごろ生えてくる「第一大臼歯」、12歳ごろ生えてくる「第二大臼歯」と並んで「第三大臼歯」とも呼ばれています。

智歯は何の症状もなく、歯の機能を果たしていれば良いのですが、とにかくいろいろな悪い条件や症状が現れることが多いようです。

まず、以前ほど固いものを食べなくなった食生活などの影響により、 あごが大きくならないために智歯が生えてくる場所が狭く、斜めに生えてきたり、外側や内側寄りに生えてきたりして、そうなると手前の歯との間に食べ物の残りかすがたまりやすく、一番奥の歯ということもあって、うまくきれいな状態に保っておくことが大変になります。その結果、智歯だけでなく、隣り合った手前の第二大臼歯もむし歯にしてしまい、痛みが出るというようなことがよく起こります。

また、この智歯は歯肉を半分かぶり、完全に生えきらないままの状態になってしまうことがあります。こうなると細菌感染を起こしやすく、炎症が広がりやすい場所ということもあって、痛みのほかに歯肉や ほほがはれたり、口が開けづらくなったり、飲み込みが難しくなったり、のどが痛む「扁桃へんとう周囲炎しゅういえん」という病気の原因になることもあります。

このような症状がでたら早めに受診してください。

顎関節症の話

あなたは、口を開けると、あごの関節部(耳の穴の前のちょっとへこんだ部分)にギシギシと髪の毛をひねるような音がしたり、カクンと大きな音がして痛みを感じたりすることがありませんか。
口が大きく開かなくなり、顎の運動が制限されるようになってきて、さらに偏頭痛、肩凝り、耳鳴り、顎の下のリンパ節が腫れるなどのさまざまな症状を伴う、顎の関節に関係した症候群を「がく関節症かんせつしょう」と呼んでいます。その原因となるものは多いのですが、次のことが考えられます。

  1. 1.歯が抜けたままになっていたり、噛み合わせの悪い歯があったり、すり減った義歯を使っていたり、噛むと痛い歯があるために片方の歯だけで噛んだりしていて、上下の顎を正しい位置で合わされないなど、噛み合わせが変化したために、顎の関節に異常な力が加わるようになった場合
  2. 2.硬くて大きい物を無理に噛んだり、歯ぎしりなどの悪習慣によって、顎の関節が限度以上に動かされた場合
  3. 3.心理的ストレスにより、噛み合わせに必要な筋肉が常に緊張している場合
  4. 4.数多くの関節の中で、唯一、ショックアブソーバー(衝撃を吸収する装置)として働く、関節円板と呼ばれる弾力性のある軟骨組織の損傷など、顎の関節部に外傷がある場合
  5. 5.顎の関節に形態異常がある場合

以上の原因のなかで、近年は社会情勢や人間関係が複雑化してきて、悩みが多いからでしょうか、3が原因と思われる顎関節症も多くなってきています。
いずれにしても、このような症状があらわれた場合には歯科医の診断を受け、噛み合わせの調整をしたり、治療用の装置を入れたりして、顎の関節や筋肉を安静の状態にする必要がありますので、早期受診をお勧めします。

はじめての入れ歯

はじめて入れ歯を入れる場合には、嘔吐感おうとかんを感じたり、バネ(クラスプ)の掛かっている歯が締めつけられたり、発音がおかしいなどの違和感を感じる人が多いようですが、痛みを感じたとき以外は、そのまましばらく口の中に入れておいてください。しばらくすると義歯床と呼ばれる赤いプラスチックの部分と顎提がくていと呼ばれる歯ぐきのどての部分とがぴったりフィットして、食事をしても違和感を感じなくなってきます。

入れ歯に慣れてくると今度はややもすると食後の手入れを怠りがちになります。取り外しのできる入れ歯は、バネの掛かる歯や入れ歯と歯ぐきとの間に食べかすや 歯垢しこうがたまりやすいものです。

毎食後、きちんと磨いていますか?うまく磨いていないと口臭の原因となったり、残っている歯がむし歯になったりする危険性があります。

入れ歯は自分の歯でないため、ぞんざいに扱われがちですが、大切に扱いましょう。入れ歯の赤いプラスチックの部分はMMAと呼ばれる合成樹脂でできています。この合成樹脂は乾燥に弱いため、使わないときは、水の中に浸しておきます。ただし、患者さんの状態によってはきれいに清掃した後、そのまま口に入れておいたほうがよい場合もありますので歯科医の指示に従ってください。

入れ歯を入れたとき、歯ぐきに痛みを感じたり、傷がついたりすることがあります。これは、歯ぐきの下のほうにあるあごの骨と入れ歯が擦れるため起こることで、普通、数回の調整が必要です。このようなときは我慢したり、自分で入れ歯を削ったりしないでください。バネが緩かったり、きつかったりする場合も、同様です。

入れ歯は人工物ですが、これが口の中に入ると生体の一部として働きます。ところが顎提は常に変化しているため、入れ歯との調和がとれなくなり、様々な症状が現れることがあります。そのような場合、すぐに歯科医に相談するようにしましょう。

歯の健康と生活リズム

こんな子はいないかな?学校から帰るとジュースやコーラを飲みながらスナック菓子を食べ、さっそくテレビゲーム。間食をしたため、夕食もそこそこしか食べられず、またテレビゲーム。夕食を十分に食べなかったため、おなかがすいて、またジュースとスナック菓子を片手にテレビゲームに熱中。あっという間に寝なければならない時間になって、歯磨きもそこそこに睡眠。夜更かししたため朝起きられずに、歯磨きもそこそこで学校へ!

これでは、むし歯にならないほうが不思議ですね。

毎日歯を磨く、という人も本当に磨けているのでしょうか?間食をしたり、甘い飲み物を飲み込んだりした後はどうですか。食べたらすぐ磨くということが歯磨きの原則ですが、簡単にできそうで案外難しいことですね。

食べたら磨くという習慣がつくと、何度も磨くことが面倒なので間食をすることも少なくなり、食生活も規則正しくきちんとしてきます。食べたあと歯を磨かずにはいられなくなってくるので、なによりもむし歯予防にとてもよいことです。

朝起きたらすぐに磨かないと気持ち悪いという人は、初めは朝食前後2回磨くのもひとつの方法です。でも、朝の忙しい時間、少し面倒ですね。寝る前に歯をきちんと磨いてあれば朝の気分も爽快。朝食もおいしく食べられるはずです。

よく「3分磨く」といいますが、3分磨けばきれいになるのではなく、あなたにあった磨き方で1本ずつ丁寧に磨くことが大切です。その結果、3分以上かかることもあるし、もっと短い時間でも十分な場合もあります。

食事をするのは体のため、歯を磨くのは歯の健康そしてやはり体を維持していくため、とても大切なことです。今までの習慣を変えるのは大変ですが、思い切って歯磨きの習慣を変えてみませんか。

妊娠と歯の健康

乳歯や永久歯はいつごろできるのかご存知ですか?乳歯は妊娠にまだ気付くことのない妊娠2ヶ月のころから石灰化が始まり、永久歯でも歯胚しはいと呼ばれる歯の芽が妊娠中に作り始められます。
最初に生えてくる永久歯である第一だい臼歯きゅうし(いわゆる6歳臼歯)を例にしてみると、その歯胚は妊娠6ヶ月ころにできはじめます。そして出生後、子どもが小学校に入学するころになって、この永久歯がやっと口の中に顔を見せてくるのです。こんなに長い年月を費やして生えてきた歯を簡単にむし歯にしてしまうなんて、全くもったいないことです。
「きちんと歯みがきをしているのにむし歯になるのは歯の質が弱いからでしょうか?」と言われる人がいます。そのほとんどは、歯みがきをしているつもりでも、きれいに磨けていないのでむし歯になっているものなのですが、歯の質は子どもがお母さんのおなかの中にいたころの栄養に関係することはいうまでもありません。胎内で丈夫な歯を作るためには、お母さん自身が健康でバランスの良い食生活を送ることが大切なのです。
バランスのとれた栄養、とくに良質のタンパク質、カルシウム、リン、ビタミンA、Dなどが歯の作られる妊娠中、母体に蓄積させてほしい栄養素です。牛乳、小魚、豆腐、海草などはいつもの2倍くらい摂取しましょう。
「妊娠中、子どもにカルシウムをとられたために歯がぼろぼろになった」と聞くことがありますが、決してそのようなことはありません。妊娠中のつわりや生活のリズムの変化で、歯みがきが十分にできなくなったために歯肉炎やむし歯になってしまった人がほとんどです。
妊娠中は、歯質に必要な栄養を含んだ食事と、十分な時間をかけた歯みがきを心掛けてください。

よく噛むことの大切さ

「噛むことが大切だ」というと、みんな食事のときには噛んでいるじゃないかと思われる人が多いと思います。ところが、きちんとしっかり噛んで食事をしている人は意外に少ないのです。

とくに最近は、加工食品中心の食生活となり、あまり噛みごたえのあるものを食べなくなったために、古代人に比べ、顎の大きさが小さくなってきているといわれています。顎が小さくなれば、当然噛む力も小さくなります。

では、よく噛むことでどんな効用があるのか、考えてみましょう。
よく噛むことにより、だ液の分泌が促され、食物の消化を助け、胃腸の負担を軽くします。また脳を刺激し、満腹感を得ることができます。逆にあまり噛まずに早く食べると、満腹感を感じたときには、すでに食べ過ぎの状態になってしまいます。そのためカロリーの取り過ぎから肥満の原因につながります。

例えば、ご飯一膳のカロリーは運動量にして、なわとび30分、ジョギング、テニスなら20分程度やらないと燃焼できないといわれています。よく噛むことが肥満防止にも役立つというわけです。

また、噛むことが上顎の骨を介して脳への刺激となるため、固形食を食べたネズミと流動食を食べたネズミとでは、学習能力に差がでてくるという動物実験の結果から、脳の発達にも影響することが分かっています。さらに、噛むことが脳への適度な刺激となり、ボケ予防にも役立つといわれています。

だ液中のパロチンという物質には抗ガン作用があるといわれています。噛むことが、だ液の分泌を促すことから、よく噛むことはガン予防にも役立つともいえます。痛くて噛めないむし歯や歯槽膿漏でぐらぐらの歯、合わない入れ歯では、よく噛むことはできません。よく噛んで健康な生活を過ごすためにも早期の受診をお勧めします。

上手な歯磨きについて

むし歯や歯周病の原因は 歯垢しこうと呼ばれる細菌の塊だということをご存知ですか?そして「歯磨き」をするのは、その歯垢を取り除くためだということを知っていますか?

歯垢はネバネバして歯の表面についているため、うがいをしたり、繊維性の食品を食べたりするくらいでは簡単に取れてはくれません。しかし、歯ブラシで上手にブラッシングすると、歯垢はブラシの毛1本1本にまとわりつくようにしてとれていきます。

現在では、どのような磨き方でも、歯垢がきちんと取れる磨き方であればよいという考え方が主流になっています。しかし、何でも自己流でよいという訳ではなく、例えば極端な横磨きを続けていると、歯の表面の歯質を削ってしまい、神経の通っている象牙質ぞうげしつが露出し、知覚が過敏になる場合もあります。

このように自己流の弊害ばかり多くて、肝心の歯垢が取れていなかったら何の意味もありません。「私は毎食後、きちんと歯を磨いているのに歯が悪い」という言葉をよく聞きますが、注意して磨いているつもりでも大抵の人に磨き残しがあります。そんなときは歯垢染め出し剤を使って確認してみるのがよいでしょう。

さて、歯ブラシといえば、歯磨き剤が付き物という気がしますが、これはさほどの効果は期待できません。付け過ぎると清涼感にだまされ、磨けていないのにきれいになった錯覚に陥ってしまいます。一日一回程度、少量(小豆大)の歯磨き剤を付ければ、歯の表面の白さを保つには十分といえます。

デンタルフロスや糸ようじなどは歯ブラシの補助的な道具と考えてください。また、 歯槽膿漏しそうのうろうなどで歯ぐきがやせてしまったような人には歯間ブラシが、お年よりや身体障害のため上手にブラシを使えない人には電動歯ブラシが有効です。上手に磨けないという人は、一度自分にあった歯磨き方法を歯科医院で教えてもらうようお勧めします。

歯周病について

歯周病、いわゆる歯槽膿漏しそうのうろうとは一体どのような病気なのでしょうか?

簡単にいうと、歯ぐきの中にある歯を支えている骨=歯槽骨しそうこつが溶けてしまう、というのが歯周病の本質です。歯槽骨がなくなれば当然、歯はぐらつき、最終的には抜けてしまいます。

その原因は細菌の塊である歯垢です。この中に酸素を嫌う「嫌気性菌」という細菌がいて、歯肉や歯槽骨を破壊するわけです。

そして、この嫌気性菌の活躍する場所が歯と歯ぐきの間にある溝なのです。ぴったりとくっついているように見える歯と歯ぐきの間にも、実は「歯肉溝」と呼ばれる溝(健康な人でも約1~2ミリの深さ)があります。ここにたまった歯垢の中の嫌気性菌は、歯肉溝を破壊しながら大喜びで奥へ奥へと侵入し、やがて溝を4ミリ、5ミリと深めていきます。

こうしてできるのが悪名高い「歯周ポケット」です。この段階では歯ぐきは赤く腫れ、歯磨き時に出血してきます。ここまでくると、歯肉炎(歯槽骨の破壊まで行かない状態の歯周病の初期段階)は間近です。

歯周病は進行していく過程で、熱や痛みを伴う事ができないため、放っておかれるケースが多い病気です。普通は20代、30代でかかり始め、20年以上経過した中高年になって歯が抜け始めます。歯周病と気づかずに、毎日雑なブラッシングを行っていると、害はますますひどくなっていきます。

しかし、幸いなことに歯周病はむし歯と違い、正しいブラッシングで治癒が可能です。歯垢を除去し、歯周ポケットをなくせば、歯ぐきは健全さを取り戻します。事実、重症の歯周病でも、本人のブラッシング次第で、8~9割が治癒しています。

40歳以上の人が歯を失う原因の5割をしめるといわれるほど罹患率が高い歯周病。いつまでも自分の歯でいるためにも、正しいブラッシングを心掛けてください。

酒・タバコと歯の健康

ふだんの生活の中で、歯が悪いときに気をつけなければならないものの一つに飲酒があります。酒は「百薬の長」といわれるように、健康な状態にあるときであればさまざまな効用があります。しかし、むし歯のときやむし歯が進んで歯が痛いとき、 歯髄炎しずいえんや歯髄充血の状態のときは、お酒を飲むことにより血圧や体温が上昇します。

すると歯髄の中の末梢血管でも同じように充血や血管の拡張が起こることにより、閉鎖された歯髄腔の内部で内圧が高まり歯の痛みが強くなります。歯が痛いときにはお酒を飲んで麻痺させるなどという人がよくいますが、飲酒程度のアルコール量では、麻酔効果が現れることは絶対にありません。
歯を抜いた日の飲酒も末梢血管の拡張と充血を起こし、止血が困難になります。また、急性の化膿性の炎症が歯ぐきにある場合もアルコールによって状態を悪化させることがありますので、飲酒は避けましょう。

一方、「タバコは歯によいのではないか」と質問する愛煙家がいます。つまり、タバコに含まれるニコチンやタールには消毒殺菌効果があるので、むし歯菌にも効果があるのではないか、というのです。しかし、残念ながらむし歯予防とはあまり関係ないようです。いわゆる歯槽膿漏しそうのうろう(歯周病)の場合はどうでしょうか?

歯周組織は末梢血管の多い組織ですので、喫煙によるニコチンやタールがそれらの組織に循環障害を引き起こす原因になります。いったん歯周病がすすむと治療が大変困難になりますので、やはり喫煙は避けてほしいものです。

歯周病は、歯ぐき(歯肉)や歯槽骨という歯を支える組織が歯周病菌によって破壊される疾患です。これを予防するには喫煙ではなく、歯周病菌の巣である 歯垢しこうの除去をすればよいことになります。

歯列不正について

歯列不正という言葉は耳新しいかもしれません。歯並びが乱れて上下の歯がうまくかみ合わない状態のことで、よく知られているものに、出っ歯、八重歯、乱ぐい歯などがあります。また上の前歯が下の前歯より内側にはえているために正しくかみ合わない状態を反対咬合といいます。

これら歯並びの悪い原因を考えると、遺伝によるもの以外は後天的なものといえます。多くは乳歯から永久歯への生えかわりの時期に問題があるようです。指しゃぶりや舌で前歯を押し込む奔舌癖などの悪癖や、よくかまない食事の影響で顎の発育が悪かったために歯並びが悪くなる場合もあります。

では、歯並びが悪いと、どのような不都合が起こるのでしょうか。食べ物をよく咀嚼することができない、歯磨きがうまくできない、見た目を気にし快活に笑えない、将来顎関節症の原因となる、不潔域が広がりむし歯や歯槽膿漏になりやすくなるなど、いろいろ困ったことが出てきます。

そこで矯正治療に関心をお持ちの方のために、治療の段階を簡単にまとめると・・・

(1)第一段階…前歯の生えかわる、およそ6~7歳のころから開始するもので、永久歯のかみ合わせが正しくなるように方向づけることを目的とする治療
(2)第二段階…すべての歯が永久歯に生えかわる、小学校高学年から、場合によっては高校生くらいになってから始めるもので、その人に最も適した歯列を完成させる治療

第一段階の治療を行えば、第二段階の治療が必要なくなる場合もありますし、乳歯の歯並びは正しくとも永久歯では歯並びが悪くなる場合もあります。治療期間は2~3年で終わる人もいれば、10年以上かかる人もいます。

歯並びが悪いと、このように様々な不都合が起こりますので、早期に歯科医に相談するようおすすめします。

歯の定期検診を

むし歯や歯周病は、他の多くの病気とは違って、ほとんどの人が一生に一度は経験する病気のひとつです。年を取れば入れ歯になると決め込んでいる人が多いのではないでしょうか?でも、あなたの歯は大切に使えば一生使うことができます。

80歳で20本の歯を残そうという運動が8020(ハチマルニイマル)運動ですが、これは正しい食習慣と食後の歯磨き、そして定期検診を中心としたホームケアによって可能になります。生活習慣として、ぜひ実行していただきたいものです。

歯の痛みに耐え切れず、歯科医院に駆け込んで、処置を受けて痛みが消えるとケロリと次回から治療を怠る人がたまにいます。そういう人は例外としても、何回か治療を続けてから、中断してしまう人がいます。治療中の歯をそのまま放置しておくと、今までの治療が無駄になるだけでなく、ますます悪化して大掛かりな治療が必要になり、時には歯を保存することが不可能になってやむなく抜歯、ということもあります。

時間と経費が増大し、ずっと続けていればこんなに損をしなくても済んだのにと後悔される残念なケースも非常に多いのです。
もし、転勤や多忙などの理由でやむを得ず中断したときは、その旨を歯科医師に告げて、それなりに処置をしてもらい、必ず再開するいう方法をとるとよいでしょう。また、治療が終わってしまうと、つい歯の痛かったことを忘れがちですが、二度とそのような痛みを経験しなくてもよいように、定期的に歯科医院を訪れ、口の中のチェックを受けることが重要です。

最低1年に1回、できれば1年に2回はチェックを受けましょう。早期発見、早期治療が時間的にも経済的にも、最も負担の少ない治療につながるからです。

味覚の話

私たちは毎日の生活の中で、味覚を楽しみながら生活しています。そして、「おいしい」「まずい」という言葉は日常よく使われています。一般に快いと感じられる甘味も、何人かが同じものを口にしてもその反応はさまざまです。
「甘くておいしい」と感じる人もいれば、「この程度の甘さでは物足りない、もっと甘いほうがいい」という人もいますし、「これでは甘すぎる。甘い味は嫌いではないけれどもっと薄い方がいいな」という人もいます。 この差はどこからくるのでしょうか。生まれつきなのでしょうか、それとも…?

味覚とは、飲食物が、舌、口蓋等の表面にある味覚器、すなわち味蕾みらいに接触することによって起こる感覚です。舌表面の味蕾の数は約5000といわれていますが、口腔内で飲食物を味わう際には味のみならず、匂い、堅さ、粘調度、温度なども口腔内の種々の感覚器で感じています。食物を味わったときは多様な味を感じます。
これらの味を数種の基本味に還元しようという試みは、ギリシャの哲学者アリストテレスにさかのぼるといわれています。現在では酸、甘、苦、塩味の4種の基本味にうま味というものを加えたものが一般的とされています。これらの組み合わせにより多くの複雑な味が起こってくるといわれています。

口腔内には、ほうきのようなセンサーを出した味細胞(味を感じる細胞)があり、これが味覚の神経線維へと移行しています。この味細胞の寿命は約2週間であると言われています。今機能している味細胞は2週間するとすべて新しい細胞に変わっているわけです。

もう一歩進めて考えると、味細胞の寿命である2週間、今までと違う味付けの物を食べているとその味に慣れることができます。濃い甘さに親しんで甘味に対して鈍感になっている人も、2週間甘い味から遠ざかっていると、以前より薄い甘さでも甘さを感じるくらい甘さに対して敏感になれる可能性があります。
これは非常に興味深く楽しいことです。今までより少ない量、薄い甘さでもおいしく感じられるなんて、とても素敵なことではありませんか。

むし歯のできやすいところ

むし歯で歯をだめにしないためには、むし歯にかかりやすいところはどこか、を知っておくことが役立ちます。でき始めのむし歯なら容易に治療することが出来るのですから、むし歯のでき易いところにしっかり注意しておけば、むし歯になってもむし歯を進行させずにすみます。

成熟した大人の歯は、高齢者の歯の根元は例外ですが、一般に、そう簡単にはむし歯になりません。でも乳歯や生えたばかりの永久歯の場合は、ちょっと油断するとむし歯をつくってしまいます。

中でも、特にむし歯にかかりやすいところは、次の4箇所です。

  1. 1.奥歯のかみ合わせの面にある溝の部分
  2. 2.隣り合う奥歯と奥歯の間
  3. 3.奥歯の外側にある溝
  4. 4.上の歯の外側の面

むし歯菌は食物中の糖を利用して、硬い歯の表面を溶かしてしまう酸をつくります。ですから、むし歯菌がたくさん住みつきやすいところがむし歯になりやすいところです。生えたての奥歯のかみ合わせの面は特に注意するところです。

奥歯のかみ合わせの溝は、生えてしばらくは表面がでこぼこな状態のため、むし歯菌から守りにくい場所です。しかも、糖もむし歯菌もたまりやすいので、注意。ということは、生えたての奥歯のかみ合わせの面は、特別に注意が必要なわけです。

次に忘れられがちなのが、「歯と歯の間」です。奥歯の外側にあるタテの溝も、むし歯のできやすい場所です。
唾液によって洗われにくく、舌や粘膜によってこすられることもあまりない部分も危険なところです。ですから、唾液の届きにくい上の前歯の外側も、意外にむし歯になりやすいところです。

お母さんがお子さんの歯みがきをしてあげるときには、この「むし歯のできやすい部分」にまず注目します。そしてそこに見つけた白い歯垢(プラーク)を取り除いたら、その歯垢の下がどうなっているかを見てみましょう。歯の表面が白く濁っていたら、もうむし歯になり始めているサインです。不幸にしてむし歯にかかっていた場合、「早期発見早期治療」を心がけましょう。

口臭について

口臭は古今東西を問わず人々を悩ませてきたようです。最も古い記録では、紀元前のギリシャ時代で医学の父と呼ばれるヒポクラテスが口臭の治療法を書き残しています。古代ローマでは、口臭を覆い隠すための香料を使った洗口剤を婦人たちが盛んに用いて、口臭の原因として悪質な食物、歯科疾患、加齢をあげた記録も見られます。西洋以外でも、紀元前のインドや中国で口臭に関する記録が残されています。

日本でも「日本書紀」に楊子の口臭予防の効能が記録されていることから、この時代には口臭に対する意識はあったようです。

口臭に関して、世の中には次の4タイプの人がいます。

  1. 1.口臭をまき散らしているにもかかわらずそれを認識していない人
  2. 2.口臭が確かにありそれを自覚している人
  3. 3.口臭がないのにあると思いこんでいる人
  4. 4.問題となる口臭がなく、また、それを意識していない人

このうち、4は一般的であるとして、問題が大きいのは1と3の人です。1の場合ははた迷惑この上なく、特に職場の同僚や上司であったり、逃れることができない相手の場合は最悪です。3は他人に迷惑をかけることはありませんが、自身を追いつめ心身症に陥りやすく、そうなると家族を含め自分の生活に大きな影響を及ぼしかねません。

口臭は原因が明らかであれば原因治療によりその大部分は改善します。しかしながら、すべての人が口臭の発生源を有し、体の代謝や分泌物の変動によって口臭が強くなったり弱くなったりしていることを思うと、誰しも口臭をはなから否定しないで、上手に付き合うことを考えたほうが良いでしょう。そのために最も大切なことは、自分の臭いについて客観的に知ることです。

それには、家族のような信頼できるパートナーが必要不可欠でしょう。いつ、どのような状況下で(人が認識できる強さの)口臭が生じているかを知ることによって、自ずからその対応ができるようになるからです。

例えば人との面会の前には臭いの強い(ニンニクや長ねぎなど)ものを控えたりするでしょうし、ミントや葉緑素等の消臭作用の強い洗口剤を用いるのも一つの方法ではないでしょうか。しかしながらいずれにしても、最も嫌な臭いの一つである腐敗臭を伴った口臭を防ぐためには口腔内を清潔に保ち、原因となるむし歯や歯槽膿漏にならないように日頃のブラッシングが最も大切なことです。

いつもきれいな歯でいるためには

歯の変色には外的要因と内的要因の2つの原因があります。美しい笑顔で健康的な表情を演出してくれる白い歯。誰もが失いたくないと願い、いつまでも健康なまま保っていたいと思っているはずです。しかし、その白さもさまざまな原因によって損なわれていくのです。

その歯の変色の原因には、大きく分けて外的要因と内的要因の二つがあります。

まずは外的要因として、食品に使われている着色料やたばこに含まれるタールなど。日常的に飲まれているお茶のタンニンや紅茶、コーヒーやジュース類もそうです。
こういった物を口にしたらすぐ歯を磨くことが重要になります。食品のカスや口の中の細菌によってできる歯垢もその要因です。むし歯予防はもちろんですが、日常的に口にするものの中にも着色料の入ったものも多いので、常に気がついたら歯を磨く習慣を身につけておくことが一番大切になってきます。

そして、内的要因のほうですが、抗生物質の一種であるテトラサイクリンの歯胚形成期における服用や乳児期の熱性疾患による歯の変色、外傷やむし歯による歯髄(歯の神経)の壊死などによるものが考えられます。

加齢、つまり年を重ねてくると、長年の間に使われてきた歯のエナメル質がだんだん擦り減り、下の黄色い象牙質があらわれ、歯が黄色っぽくなることもありますが、それは自然におこることです。

一方で事故で歯をぶつけたり、何らかの形でダメージを受けた時、歯が変色したりすることもあります。歯の神経が切断され、変質したりすることもありますし、全身的な疾患(病気)、たとえばビタミン不足も原因の一つになります。

このようにいくつか挙げてきたものの中から複合的に重なって変色の原因になっているということが言えます。究極を言うと、水、食べ物、タバコ、お茶、コーヒーに紅茶、いろいろな着色料の入った飲料水にお菓子やスナック類…。

原因は身近にあふれているのです。年齢からくる変化も加えると、私たちの生活の中で白い歯を保つのはたいへん。必然的にまめな歯みがきが必要になってくるのです。

歯の寿命と死

歯牙・歯周組織(歯やその周囲の組織)の寿命というものはあるのでしょうか。実感として歯髄(いわゆる歯の神経)は生きている、歯根膜(歯の根の周りの組織)も生きている感じが受け取れますが、エナメル質(歯の最も外側にある石英とほぼ同等の硬さを持つ人間の体の中で最も硬い組織)や象牙質(歯の神経の外側にある象牙とほぼ同等の硬さの組織)は生きているのでしょうか。

近年では、歯髄と象牙質を一つのものとして、歯髄/象牙質複合体と称しているようです。しかし抜髄(神経を除去する処置)をして歯髄を除去してしまった後の歯牙象牙質は生きているのでしょうか。もちろん歯根膜から若干の栄養水分は得ることができるでしょうが…。

生体の恒常性は枯死(アポトーシス)というプログラミングされた死によりコントロールされています。歯周病(いわゆる歯槽膿漏)やむし歯が進んで歯髄死や感染根管(葉の根が化膿すること)などの炎症でみられる死は壊死(ネクローシス)で、組織の破壊が見られるのが特徴です。それゆえ、歯槽骨(歯を支えている骨が)吸収されたり、歯根膜が破壊されてしまったと説明がつくのです。枯死は組織の形を壊すことなく順番に細胞が死んでいき、そこにまた新しい細胞が新生されるのです。理想的な死なのです。

恒常性のバランスが崩れ、寿命を迎えるまでもなく腫瘍性変化を起こしたり、生まれながらにして奇形として出てくるものもあります。現実としては、寿命を迎える前に炎症により歯牙を失う人が多すぎるため、現在では8020運動が提唱されているわけです。

人間は確実に年をとっていきます。すべての人が寿命を迎えられるようにと願うのと同様に、歯や歯周組織がその寿命をまっとうするようにしたいものですね。